Tariffs and Software
新しい大統領は tariff / 関税が好きらしい。
関税は国内産業を保護しアメリカ人の職を守ってくれることになっている。がしかし、ソフトウェア開発者の職はぜんぜん守ってくれそうにない。
なぜか。製造業では、アメリカの会社 (たとえば GM) が工場を国外(たとえばメキシコ)に移転すると、商品(たとえばクルマ)はメキシコで完成するので輸入には関税がかかる。アメリカ国内に工場を維持しつつ部品などは海外調達することにしても、その部品の輸入には関税をかけられる。割と抜け道がない。
一方のソフトウェア。アメリカの会社がアメリカ人向けに開発するソフトウェアプロジェクトを考える。この会社が開発を国外拠点にオフショアするとしても、マネジメントとかがアメリカ国内に存在しアメリカのソフトウェア・サービスとして出荷されれば関税はかからない。高く付く国内のプログラマはクビになる。抜け道。
もちろんソフトウェア寄りの世界にも保護主義的な施策はある。たとえば EU など一部の国はセンシティブな個人情報を国内のデータセンターに置くことを求めている (data localization). これらはプライバシー上の施策だが、保護主義的な面もゼロではない。アメリカのビザ人数制限も保護主義的施策である。いずれにせよ、これらはオフショアからプログラマを守ってはくれない。
2022 年の ZIRP 終了と 2023 年以降の GPU 費用高騰にあわせ、アメリカのテック企業は人件費削減のためじりじりと開発人員の国外移転を進めていることが、風の噂などから知られている。我々ドメなプログラマ困るじゃん?職にあぶれないよう大統領に泣きついて保護政策をピッチしなくていいの?社長の皆様は札束抱えて詣でに行っており、グローバル US 企業の経営者は伝統的に労働者たるアメリカ国民を大切にしないので、このままだと一層クビが危ういですよ?
・・・なんてことを自分はあまり考えていないが(文字通り非国民なので)、団結して権利を主張したいテック労働者の中には保護主義になびく人もでてくるかもしれない。それは、責められたことではない。誰だってレイオフはイヤだから。
My Job Went To India
20 年前、Post-dotcom のオフショア吹き荒れる中でインド人の相手に疲れた大企業プログラマがいた。(インド人に恨みはないが、オフショアはどうしても人の心が腐れるのだよ。)当時 GE のソフトウェア部門に努めていた Chad Fowler である。Chad Fowler はその後 GE を去り, My Job Went to India という本を書いた後スタートアップを転々として、最終的には開発していた TODO アプリが人気を博し Microsoft に買収され、今日は VC 投資家をやっている(LinkedIn など調べ)。
Chat Fowler は本書で「インドに疲弊してないでオープンソースをやるんだ! Ruby サイコーだぜ!」みたいなこと(うろおぼえ)を言って大企業疲弊組を煽った。そんなオープンソース・ムーブメントは数々のインターネット企業を生み出し今日に至っている。
オープンソースの時代に生まれ育ったそれらインターネット企業は、数年前までは、海外拠点を持ってはいてもアメリカ国内の雇用を渋ることはなかった。けれど今日のテック大企業は 2004 年の GE に近づきつつあるのかもしれない。
そんな 2025 年、世の中に Chad Folwer 相似の vibe のを見つけるのは難しくない。生きのいい若者たちは大企業を抜け出し San Francisco に集まって「インドに疲弊してないでエーアイをやるんだ! DeepSeek-R1-Distill-Qwen-7B サイコーだぜ!」と叫んでいる。そんな威勢のいいエーアイ若者がソフトウェア文化の中心を形作るなら、保護主義に擦り寄るなんて発想すらなかろう。
ソフトウェア開発者のための保護主義的政策にはどんなオプションがあるかを考えるのは面白い armchair policy making かもしれないとおもってこの文章を書き始めたけれど、そんなことに頭を使うより何らかのサイコーなものを追い求める方が健全だな。ということでこのスレッドは終了。
少し話を巻き戻し、ちょっとだけ armchair policy making に興じてみたい・・・が、あまりアイデアはないね。
素朴に考えると、アメリカ国民を海外のやすい労働力から守る法律、すなわち Visa の人数制限と給与下限の設定を、US 企業の海外での雇用にまで拡大すればよい。たとえばインド・・・の話ばかりしてるとカドが立つので他の国を使うと、たとえばアメリカの企業が日本のプログラマを雇う人数を制限する。・・・これはとても現実的には思えない。どうやって enforce すんねん。
ではUS企業が日本で雇ったプログラマに課税することは可能だろうか。これも同じ理由でできそうに思えない。
というわけでアメリカのプログラマを保護する法律のアイデアは、素人が 10 分考えた範囲では存在しなかった。チャットにも聞いてみたが特に色良い返事はなかった。下手な考え休みに似たり。もっと楽しいこと考えて生きていきます。はい。