Book: The Simple Path to Wealth
The Simple Path to Wealth: Your road map to financial independence and a rich, free life
最近何冊かカネの本を読んだ。その感想。なお自分の金融リテラシーは高くない。
この本は Mr. Money Mustache という老舗の FIRE blog にあった推薦図書リストから選んだ一冊。中身は Vanguard で US 株のインデクスファンドを全力で買え、具体的には VTSAX を買え、引退したら二割は Vanguard の債権のインデクスにしろという話だった。
節税のための年金まわりのチップスとかもあるけれど、基本は Vanguard 全力推しの書である。色々小細工なしで Vanguard だけ買えばいいから "Simple" という主張。Vanguard の良さは各所で議論されており実際 US 最大の mutual fund なわけだが、ここまで一冊通して熱烈にプッシュされるとたじろぐ。しかし一定程度説得力もある。
Vanguard はさておき、その他の点で印象的だったのは「現役の間は債権は不要」という態度。
「株が怖い」というのはアメリカ人にとっても一定程度存在する感情らしく、著者は「それはインフレのリスクをデフレのリスクに差し替えているだけだ」と説得する。それはわかる。しかし続いて「経済が日本みたいに四半世紀不景気なままだ、なんて心配をしても仕方ないだろ?」と言われると、不景気の国から来た身としては戸惑ってしまう。
じっさい自分はいわゆる robo advisor を使いながら債権の割合を高く設定している。そのせいでここ 10 年くらいの US 株の成長には乗りそびれている。株式市場を信じられていない。それにしても債権下がり過ぎだろうという悲しみはあるね・・・。
不景気育ちの心理
日本育ちの自分がアメリカの金銭的な常識に適応できていないせいで判断を歪めていることは色々ありそうだ。この本は Vanguard 以前にそのギャップを照らし出した。
ギャップはあるなと常々感じてはいたけれど整理したことはなかったので、自分の中にある気がする US 金銭感 (or facts) との自分の直感のギャップを書き出してみる。情強の皆様はご笑覧ください。
- 株式は、一時的に落ち込むことはあっても長期的には回復、成長する。
先に書いた通り。なおここでいう「一時期」というのは数年、せいぜい五年とかのスパンを暗に想定している。ゼロ年代後半の金融危機からの回復は五年ちょっとだったらしい。日経平均はバブル水準に戻るまでに三十年以上かかっており、かつドルベースでみると別にそんな回復してないわけで、マジ別世界。特にゼロ年代の停滞ぶりといったらない。この冬の季節にわたくしの市況感が形成されたわけです。 - 投資信託・金融商品が豊富
これは株式市場の強さとセットかもしれない。日本から Vanguard とか買うのは大変なわけだが、US に住んでると当然普通に買える。Vanguard 以外も色々ある。Cryptocurrency もアメリカ生まれである。日本も最近は色々あるらしいけど、ゼロ年代は全然なかったと思うんだよね。知らなかっただけ? - 税制が情強優位
年金や医療費周辺で、がんばると非課税になる口座みたいのがやたら何種類もある。しかし制度が複雑で、活用するにはやたらと頑張りが求められる。課税のタイミングでも様々なハックで税率を下げることが可能であり、しかしそれもかなりの知能を求められる。 - 物価が高い。特にベイエリアなど一部地域。
お、自分けっこう給料高いじゃん・・と油断しがちだが、物価指数で割ると我に返る。安いのは野菜と果物だけ。自炊すんぞ! - インフレが現実にある。
年に 2% くらいはずっとインフレしていて、ここ二年では計 20% くらいインフレした。日本のインフレもゼロではないけれど、自分の経済感覚が形成されたゼロ年代はほぼゼロといっていい風情だった。これに株式市場のぱっとしなさが加わり、10 年前くらいまではタンス預金でも大打撃は受けなかった。 - クレジットカードで借金するのが割と普通。
普通というと語弊があり金銭的にマトモな人は借金しないが、Personal finance の本を読むと必ず debt の話からはじまるのでやらかす人が多いのは事実という印象。日本育ちのわたくし、借金とかねーわ・・・というのが普通と信じてますが、育ちが裕福なだけなのかい?これもインフレ故だろうか。 - 家の価格がインフレより速く上がる。
インフレがあるのみならず、不動産価格の高騰が著しい。家賃も同様。これは昔からずっとそうらしい。アメリカ人はインフレから逃れるためにみんなローンで家を買う。そして値上がりした家を元手に新しい家に買い換えたりもする ("starter home" という言葉が存在する。なんだそれ。)日本で家を買うのは一生に多くて一度。基本的には嗜好品である。金銭的に割が合うケースもあるだろうけれど。 - 学費が同上。
住宅ローンの次に高価な学資ローンを組む。やべーな。 - 自分が遅まき移民である。
これは金銭感のギャップとは別で個人的な自己認識の話。自分は 35 歳くらいで引っ越してきたわけです。それを二十代から高給取りをしている Big Tech 若者とくらべると人生の序盤 10 年くらいが実質無貯金(当地物価換算)なので、全然金銭的見通しが違う。Compounding interest が重要だよ手取りの五割貯金だよと言われても左様ですか・・・とため息しか出ない。配偶者にしても日本から誘拐してきたようなもので、フルタイム共働きしろと言われても困ってしまう。
こうした認知のズレは早い段階で意識的に正していくべきだったが、子供が生まれて忙しくなり、そこにコロナがきて完全に記憶が失われ、気がつくと 10 年くらい経っていた。自分の financial prospect を正しく把握できておらず、結果としてイマイチな判断をいくつもしたと思う。
今はギャップを補正できたかというと・・・少しはできたかもしれないけど、まだまだ染み付いているね。ギャップがあるとわかっていても、古い常識が抜けず新しい現実を受け入れられない。呪いが解けない。
まあ、できる範囲でできることをしていきます。