チームの雰囲気は MSG
チームの雰囲気や文化の重要性を説く言説やチームビルディング活動などに、どこか座りの悪さを感じていた。雰囲気や文化が大切という意見がある一方で、仕事の内容や取り組んでいる問題の方が重要という気持ちがあった。
ある日、あらゆる料理に次々と MSG をぶちこみながら味見していくビデオを観て、ふとチームの雰囲気は MSG みたいなものかもなと思い至り、腑に落ちた。
なお一部アメリカ人は MSG powder の話ばかりしているが、MSG 発祥の地たる日本生まれのグルタミンエリートである我々はメタファを pure MSG に限る必要はなく、ウェイパーでもめんつゆでも、なんでも良い。
第五の味覚と呼ばれる umami は料理に欠かせない。一方で MSG で人工的に umami を増幅する人工的な手口に抵抗がある人もいる。製品の成功に与えるチーム文化の影響は誰も無視できないが、ハードコアな傾向のある人はそうした文化は仕事を通じて醸成されるべきで、チームビルディングイベントなどの「人工的な増幅」に白けることもあるだろう。
ある時期からヴィーガン風の料理をするようになり、それに伴い MSG を積極的に使うようになった。動物性の材料を使わず umami を得るのはけっこう難しいなか、MSG を振りかけるとそれっぽくなる。便利。いまや塩や胡椒と同じ感覚で使っており、以前かすかに感じていた抵抗もなくなった。
同じように、チームビルディングのイベントにかつて感じていた抵抗も、今はなくなった。ああいうイベントでチームの結束が「すごく」強くなるとは思わないが、効果はゼロでもない。何度も定期的にやっていると、ついでにいわゆる diversity / inclusion 系の研修を通じて上層部が棘や毒のある物言いを牽制しつづけると、チームの雰囲気は少し良くなって、少し結束も生まれる。MSG を小さじ半分ふりかけた炒飯みたいに。
製品が大当たりして急成長中の製品をもつ開発チームは脂の乘ったステーキみたいなもので、MSG たるチームビルディングイベントとかはさほど必要ないだろう。塩胡椒で十分。他方には淡白で umami の増幅が効果的な、あまりセクシーでないプロジェクトもあるだろう。
MSG も使いすぎると奇妙なマズさに至る。同じようにチームビルディングのやり過ぎによるシラケはあり得る。また増幅される風味すらない、食用とは程遠いプロジェクトもある。
そうした極端なケースはさておくと MSG の応用範囲は結構広い。各種のチームビルディング活動や組織文化醸成行為にも同じような役割があるように思える: 特定の指標をちょっと良くする白い粉。
MSG を認めたくない心理もわかるが、それはある種の贅沢とも思う。自分はチームのレシピを決める身分ではないから、組織に MSG をいつどのくらい入れるべきか意見はない。ただ出された皿には嫌な顔をせず umami の恩恵を認めていきたいと思う。