Book: Exit Interview: The Life and Death of My Ambitious CareerBook:

https://www.amazon.com/Exit-Interview-Death-Ambitious-Career/dp/0374600902/

2006 年に Amazon に管理職として入社し 13 年務めたが一度も出世できなかった女性の手記。「女性」というのは余計に見えるかもしれないが、出世できなかったのはガラスの天井のせいだと主張しているので、重要。

奇妙な本だった。面白いかというと、面白くない。NYT のレビューを読むと Amazon におけるジェンダー差別を告発する本を期待するし、そういう面はあるのだが、基本的には著者の半生記・・・とまではいかないけど、memoir なのだよね。でも特になにかを成し遂げた有名人というわけでもない管理職の memoir とか別に面白くないわけです。

読者(自分)は Amazon に興味があるわけで、著者には興味がない。けれど内容は自伝。Amazon 勤務を描いた自伝なので Amazon エピソードは満載なのだが、それがメインではない。メインは著者。そっち興味ないんだけどな・・・。

Amazon エピソードだと、たとえば新製品発表時の Bezos のメッセージを代筆し、そのレビュー会議に出る話だとか、管理職として骨のあるところを見せるために部下を PIP するエピソードとか、まあまあ面白い。

ジェンダー差別告発パートはどうかというと、残念。出てくる男たちは次から次へとクソ Jerk ばかりで著者が気の毒になるのは確かだけど、Jerk で差別的な男というのは別に Amazon に限った話ではない。Amazon 固有の、もっといえばテック産業固有の問題をうまく描いてほしかったが、自伝という性質もあり視野がミクロで、構造的問題をまったく捉えられていない。

著者は non-tech 出身で、Amazon でも製品データの入力や商品紹介テキストの管理など tech 隣接部門からキャリアをスタートしている。しかも管理職。他の Amazon/Tech 告発本にはない視座を持っていたはずなのに、それが生かされることはなかった。Tech 企業における non-tech 人員の割の食い方とか、テックにおけるジェンダーバイアスの象徴としていくらでも書くことあったと思うんだけど。

結局は、著者は Amazon が、あるいは Amazon で働きあげた自分が好きなのだろう。文章からそれが伝わってくる。だから Amazon を糾弾しきれない。そもそも Amazon は話の主役ではない。だから Susan Fowler のような切れ味も洞察もない。Susan Fowler と比べるのはフェアじゃないっちゃそうなんだけど、本当に Amazon に一矢を報いたいならポエムっぽい自伝の片手間じゃダメだよね。

なおその自伝パートはどうかというと、基本的には面白くない。ただ野心的で貪欲でワーカホリックなアメリカ人会社員の心情が下手に美化されるることなく赤裸々に語られており、そこはある意味好感が持てる。ストレスのあまりアル中になりかけたり、ストレス対策のヨガが物足りなくなってランニングに切り替えたら足を痛めたり、高いカバンを買わずにいられなかったり、生々しい。(なおアル中は無事回避できたらしく、それをネタに書いたデビュー作の本が割と売れている。こっちの方が面白いかもしれない。読まないけど。)あといわゆる「理解のある夫」氏がでてきて、その扱いの軽さに男性の書くキャリア読み物に見られる配偶者の扱いの軽さを重ね合わせてしまうわたくし。

まあそんな本です。生々しいエピソードとツッコミどころは多いので、そういうのが好きな人はどうぞ。そういえば Audible は本人が読んでて、生々しさと痛々しさが良いです。

追記

Amazon レビューをみるとすこぶる評判が良い。似た境遇の人には響くらしい。おっさん向けの本ではなかったということですね。