プログラマたちの業務外テック活動

同僚をみていると、仕事の外でプログラミングをしている人は少ないなと思う。ランチの時も、仕事以外のテクニカルな話をすることはほとんどない。今に限った話ではなく、もう 10 年くらいそんなかんじである。趣味プログラミングをしている人もいるにはいる。でも少ない。

ではどんな趣味があるかというと、観測した範囲では...

  • 趣味とかいう以前に家庭が忙しい。子供が複数いて共働きというパターンはとても多いが(ヒラの収入だと共働きでもしないと家が買えないので)、そりゃ忙しいだろうなと思う。そして高学歴・高収入なおうちほど習い事を詰め込みがちであり、子の習い事やスポーツには送迎やボランティアが伴うのである。
  • そうした家庭持ちが家を買うとそれはそれで様々な趣味がアンロックされてしまい、忙しくなる。庭をいじったり、ガレージで木工をしたり、家自体を改造したり。こういうのは時間がかかるっぽい。
  • 家を買えない若者もクルマとかは買いがちであり、それらでドライブとかはわりとある模様。
  • アウトドア趣味の人も多い。ハイキングやバイクが多い。あと冬はスキー。夏はキャンプ。天気がよく、そこそこ自然が近く、がんばって足を伸ばせば National Park もいっぱいある。あるときランチをしたら、行った場所にマークをつけられる National Park 踏破地図を持っていないのが自分だけだったことがあり、びっくりした。
  • アウトドア派でない人は何をしているかというと、旅行をしたり写真をとったり楽器を弾いたりしている。

つまり、世の中に趣味はいっぱいある。

ただ企業開催の勉強会・ネットワークイベントみたいのにいくとそれはそれで人が沢山きている(COVID 以降はわからないが、昔はきていた)ので、課外活動にテックをしている人は、どこかにはいるのだと思う。勤務先社内でも、チームメイトとそういう話をする機会はないにせよ、チャットやメーリングリストのようなオンライン社内コミュニティは一定程度活発なので、いることはいるのだろう。密度が低いだけで。

あと自分は製品開発部門にいるからテック密度が低い面はあるかもしれない。インフラ部門などテック密度が高い部門では、また様相が違うこともあろう。

さて、そうしたテック密度低めな製品開発部門の同僚諸氏は、どうやってテクノロジの進化にキャッチアップしているのだろうか・・・という疑問はさておき、入社に際しては知識や技術が必要ということになっているので、それらのスキルはどのように獲得されたのだろうか。

  • 若者は、ふつうに大学でばりばり勉強してるのだと思う。アメリカの大学とか、自分は卒業できる気がしない。「アメリカの大学」は主語でかすぎだけど、それなりに有名なところね。
  • 仕事のスタックがそれなりに現代的であれば、ある程度のリテラシーは仕事を通じて身につくだろう。
  • 「転職するぞ」と決めて、期間限定で勉強する人もいるだろう。移民勢は、母国でしばらく働いて学費を稼いだあと US の大学院に入学、卒業して職探しをしたという人がけっこう多い。ガッツがある。あとここ 10 年くらいで大企業の面接対策はノウハウ化が進んだので、そういう特化型対策でショートカットする人も一定数いることが知られている。

別の言い方をすると、大企業にいる人たちというのは学生のうちにきちんと勉強したり仕事できちんと経験を積んで入社してくるのが最近は一般的であるように見える。趣味のプログラミング好きが高じて・・・というパターンは、自分の周りに限ると多数派には見えない。

では入社したあとはどのようにテクノロジーへのキャッチアップを続けるのだろうか・・・というと、多くの人はそんなに続けていないのではなかろうか。というのも、仕事で開発しているシステムやアプリが突然なくなったりしない限り、テクノロジのスタックがガラリと入れ替わることはそんなに多くないからである。じりじりと部分的に入れ替わることはあるが、そういうのは仕事の範囲でキャッチアップできる。

そして大企業におけるキャリアアップというのはふつう出世であり、出世に必要なのは目の前の仕事で成果を出すことであって、新しいテクノロジにキャッチアップすることではない。なので、新しいテクノロジについていく動機は薄い。異動するにせよ、経験を活かせる隣接領域を狙うのが一般的。

という視点でみると、趣味としてテクノロジを追求している人はかならずしも多くないが、出世を目指しガツガツ仕事をしている人はそこそこ多い。夜遅くまで働く人々。そうやってガツガツ働けば成果は増えて、出世の足しになる。別の言い方をすると仕事が趣味の人はそこそこいる。プログラミングが趣味な人の中にも、仕事で多めにプログラミングしている人はぼちぼちいるのだろう。

なにより会社という空間では仕事で成果を出すと良いことが多い。仕事で成果をだし出世すれば裁量が増す。新しいテクノロジを使う新しいプロジェクトに参加する機会も増える。結果として趣味の時間を溶かさなくても仕事を通じて新しいテクノロジにキャッチアップできる、ことが割とある。(仕事の成果のために趣味の時間を溶かしているかもしれないが・・・)

あるとき Android プログラマなはずの隣の同僚が、「TypeScript わかる?なんか次のプロジェクトで使わないといかんのだけど Java みたいなもんだよね?」と言い出し、思わず「ちげーよ!てかなにそれ代わってくれよ Java 飽きたよ!」と叫びそうになった。彼は別に超過労働はしてないが、優秀なチームのエース。面白い仕事は頼りになる人に寄ってくる。(なおその仕事は TypeScript 以前に謎の社内 DSL を使える必要があり、自分はそれを一ミリも知らないのでお呼びではないのだった。)

つまり、雇われている会社が成長していて新しい仕事の機会がたくさんあるなら、仕事をがんばり出世してそれらの新しい仕事を手に入れる方が、業務外活動でちまちまキャッチアップするより割が良いかもしれない。稼ぎも増えるし。

でももし勤務先の景気がわるくなるなどの理由で仕事を通じた進展が期待できなくなったらどうしよう。というと、このときはじめて業務外のキャッチアップに時間を割く・・・人もいるかもしれないが、実際のところはよくわからない。レガシー人材として眼の前のレガシー仕事を続ける人も多いのではないかと思う。プログラミングの仕事はこの四半世紀くらいずっと拡大を続けているので、ひどくついていない場合を除けばなにかしら仕事はある。多少のキャッチアップが必要とはいえ、大きな飛躍は必須でない。


課外活動でプログラミングなどテック活動を続けている、自分の周りでは見かけないハッスルな人々は誰なのだろうか。

  • 現職の景気が悪い、もっと稼ぎたいなどの理由でバーンと河岸を変えたい人々。転職や起業の準備としてテックしている。
  • 若くて時間と体力と野心が余っている人々。テックじゃない趣味もやって、テックもやっている。
  • 新しいテックが好きな人々。毎年新しい iPhone を買うようなイメージで毎年新しいプログラミング言語やプラットフォームを触っている。趣味プログラマ。
  • 書くに値する、表立って話しやすいテック仕事に就いている人々。テック・インフルエンサー。

こういう人々は、世の中には沢山いるように見える。しかし自分の周りにはいない。なぜだろうか。

  • 自分の周りは、世の中よりテック密度が低い。「世の中」は主語が大きすぎるが、自分が 20 代に東京で働いていた時よりは低い。
  • 「自分の周り」には年齢フィルタがあり、実はチームメイトの若者は割とテックしてる。そういう部分はゼロではない。九時に来て五時に帰ってしまうおっさんは面白い会話には混ぜてもらえないのだよ。
  • テックという「趣味に関する話」はオフラインの職場でなくオンラインの趣味コミュニティでやっている。
  • ハッスルな人々はインターネットの力で目立ちやすいので、実際より多く見えている。


といった身近な観測をふまえ我々プログラマはどう「すべき」なのか・・・なんてのは人それぞれなのだから、自分で考えればいい。

それよりも、自分は身近な観測を書いてみたかった。この手の議論は「べき」の話ばかり目について世の中の現実がどのように見えるのかの談話が少ない。それが気に入らない。みなさまから見えるプログラマたちの業務外テック活動はどんなものかもどこかに書いて教えてね。