マンガの読めなさ

マジでBLEACH初めて読んだ|ジスロマック

これを見かけてふと思い立ち BLEACH を読み始めた(電書)。でも 20 巻くらい読んだところで疲れたというか、白けてしまった。

BLEACH は 20 年前の作品というせいもあって古さが目立つが、別に BLEACH に限らずマンガはどのジャンルも類型化と先鋭化が進んだ結果、素面で読むとつらい蛸壺的表現がある。マンガを日常的に嗜んでいるとそういう蛸壺ノイズに適応するので無視できるが、間があくと鼻についてしまう。

20 年くらい前に社会人になったとき、少年誌・青年誌のマンガを読むのはやめて少女漫画と大人向け少女漫画(なんていうの?青年誌の女性カウンターパート)だけを読もうと決めた。それまではどちらも読んでいたが、金もかかるし本棚にも入らないし会社員は学生より時間もないしで、探索空間の半分をばっさり切り捨ててスループットを減らそうとした。

少年誌をしばらく読まないでいると、努力友情勝利的な価値観がくだらなく思えてくる。現実には努力と友情があっても勝利には繋がらないし、おまえらそもそも努力より謎の才能の力で成功してるじゃん。そんな作為性が鼻につくようになってシラけ、ジャンプ的なマンガを読めなくなった。ジャンプマンガを読むときはそういうのはお約束として受け流さないと楽しめないわけだが、間があくとスルーのための免疫が失われてしまう。これが最初の蛸壺ノイズ免疫消失体験だった。

そこからまた 10 年くらいして結婚して西海岸に引っ越して、少女漫画も読まなくなった。持っていたマンガは引っ越しに際し全部捨てた。以前より生活が忙しくなり妻も特にマンガを読む人でなかったせいもあり、マンガが生活から消えた。

電子書籍アプリの仕事をしていたあるとき、製品のマンガサポートを強化するプロジェクトが始まった。自分は開発に参加はしてはいなかったが、せっかくだから dogfood でもするかと久しぶりにマンガを買って読んでみた。

一番好きな漫画家だった谷川史子の新刊をホクホクしながら開くと、これが全然楽しくない。というかムカつく。なんちゅうか、結婚して家庭を持つことに対する甘さや覚悟の無さがヤバい。結婚すんの大変なんだよおまえわかってんのか!と無性に腹が立ち、読み進められなかった。

言うまでもないことだが少女漫画における甘さすなわち王子様信仰みたいのはジャンプの謎の才能バトル勝利信仰と同じで、ジャンルの様式である。それは受け流さないと読めない。おもえば10代の頃はじめて少女漫画に舵を切ったときは王子様信仰や恋愛至上主義がくだらなすぎて辟易した遠い記憶がある。当時はそれをある種の挑戦として受け取り、読み続ける中で克服したのだった。

そしていま、再びジャンプ的マンガである BLEACH を読んでみると、ムダにバトルばっかりなのはまあいい。冒頭でリンクしたレビューを読んで心の準備をしていたので。でも Rukia と Orihime の扱いに落胆してしまった。

まず Rukia. 物語冒頭で描かれていた強さや個性が Soul Society に捕まったあたりから完全に姿を消し、すっかり囚われの姫君になってしまう。

Orihime. 登場当初は乳がでかくて髪が長いベタな設定を笑い飛ばす力があったのに、いつの間にか戦隊モノの紅一点みたいになってしまう。

もっと強くて攻めたかんじにしてくれよ。Uryu とか Chad とかもっと活躍してんじゃん。よわっちいベタなステレオタイプに巻き込まないでくれよ。

囚われの姫君や戦隊ものの紅一点といった抑圧的なステレオタイプへの失望。これは「少年」ジャンプなので仕方がないというか、BLEACH に限らず多くの少年漫画が抱えている慢性的な問題なのだろうけれど、女児父親西海岸大企業勤務という立場が著しく増幅した自分の PC sensitivity と、年寄りにありがちな精神的柔軟性の欠如が重なって、このがっかり感をお約束だと受け流せない。

そんな中でかっこよさを発揮している女性キャラクター Yoruichi. ちょう強い。

Yoruichi, 最初は黒猫として登場し、そして後にめちゃ昔から生きている古株であることが明かされる。動物と年寄りの成分を頼りに抑圧的ステレオタイプを退けることができたといえる。まあ結局くノ一なんですけど。それはいいとして・・・

こういうのが言いがかりだとはわかっている。自分が対象読者ではないだけである。

では 10 代の自分が少女漫画に挑戦したように、40 代の自分も少年漫画の価値観を受け入れるメンタル・ストレッチに挑んで対象読者マインド、ノイズへの免疫を取り戻すべきなのだろうか。あまりそうは思えない。こんな抑圧的な表現ダメでしょ、というのが今の自分の立場なので、それを取り下げる気はない。

人々に BLEACH を読むのをやめろという気もない。自分は SJW ではないし、そもそも BLEACH なんて 20 年前のマンガである。 今更ケチをつけても仕方ない(つけてるけど)。自分は読まないというだけで。

むしろこれを機に現代的なマンガを読んで自分の認識を新たにするのが生産的かもしれない。きっと現代的でかつ面白いマンガもあるでしょ。マンガが楽しめないの、これはこれで悲しいんだよね。安心して楽しめるのが Disney だけっていう精神性どうなの。

が、なんだか疲れてしまったので現代マンガ修行は元気になったときにとっておき、まずは BLEACH 読みすぎで乱れた生活を立て直していこうと思います。寝不足。